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ファスティングと酵素ドリンク

2015.12.29

以前のブログでファスティングの有用性を細胞内の「オートファジー」の観点から説明させていただきましたが、よくファスティングとセットで取り入れられることが多い「酵素ドリンク」について今回はちょっと掘り下げて説明させていただきます。

一般的に酵素ドリンクというのは不足しがちな酵素を取り入れ、健康的にダイエットしましょうとか健康的になりましょうとか説明されている場合が多いです。
また、ファスティング時の栄養補給?のためかセットで取り入れられている場合も多いです。

 

 

three citrus in white bowl

そこで酵素ドリンクの有効性について考察してみました。

まずは少々難しい話になるのですが、「酵素」についてです。
酵素というのは、触媒として働く基本的にタンパク質から出来ているもので、生物の細胞内で作られます。
簡単に例えると酵素はある物質を別の物質に変化させる働きを持つということです。
また、酵素はタンパク質からできるためアミノ酸のつながり方(1次構造)は種類ごとに異なります。
そして含まれる1次構造により、2次構造、3次構造が決まってくるのですが、その3次構造が特に大切で、特定の物質にだけ反応するのはこの3次構造のためです。すなわち、ひとつの酵素はひとつの反応だけに働くということです。

また、酵素にも色々と種類があります。大きく分けて6つの分類になるのですが
・酸化や還元反応に関する「酸化還元酵素」(乳酸脱水素酵素、キサンチンオキシターゼ、ビリベルジンレダクターゼなど)
・一方の物質からその一部分を別の物質に転移させる「転移酵素」(グルタミン酸ピルビン酸アミノ基転移酵素、プロテインキナーゼなど)
・基質に水を加えることにより、2つに分解する「加水分解酵素」(α-アミラーゼ、アルカリホスファターゼ、ペプシンなど)
・基質の一部を取り去る「脱離酵素」(アルドラーゼ、ヒスチジンデカルボキシラーゼ、アデニル酸サイクラーゼなど)
・異性体に変化させる「異性化酵素」(グルコース6-リン酸イソメラーゼ、ホスホトリオースイソメラーゼなど)
・2つの物質を結合させる「結合酵素」(カルバモイルリン酸合成酵素、ピルビン酸カルボキシラーゼなど)
があり、6分類総数3000種以上あると言われています。

つまり、3000種類以上の体の中の反応に使われているわけです。

また、酵素はその種類によって働く環境が変化し温度やpHに酵素の活性も変化します。
中性のpHで働く酵素から胃の中のpH2~3位で働くペプシンなどがあります。例え飲み物で酵素を摂取したとしても胃液にさらされることにより失活(高次構造が崩れて活性を失う)する酵素も多いです。

また、酵素ドリンクの説明に代謝をよくするみたいな内容がありますが、ちょっと深く考察してみます。

代謝とは生命維持活動に必須なエネルギーの獲得や,成長に必要な有機材料を合成するために生体内で起るすべての生化学反応の総称ですが、エネルギーの生成に必要なTCA回路(クエン酸回路)について必要な酵素をあげてみます。

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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 ( 2015年10月28日 11:13  UTC 版)

この図のように様々な酵素(この図の中だけで11種類)の力を借りて、食べ物からエネルギーであるATPを産生していくのですが、どの酵素ドリンクの広告を見てもこれらの酵素の記述はありません。
しかし、代謝をよくするためには上記の酵素が必要なのは生理学的に見ても必須です。

このように様々な観点から酵素ドリンクを見ても全くヒトのための酵素の働きに役立つとは言えないみたいです。

では何故こんなにも酵素ドリンクが多く販売されているのでしょうか。

広告をよく見てみるとなんとなくわかってきたのが、酵素と発酵を間違えているのではないでしょうか。

発酵とは微生物が自己の酵素で種々の有機物を分解あるいは変化させ,それぞれ特有の最終産物をつくりだす現象をいうのですが、その酵素によって出来たものを酵素ドリンクとして販売しているみたいです。

 

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広告の内容を見ると「数十種類の野草と数十種類の果物・野菜から抽出!陶製のかめでぶくぶくと酵素により発酵させ・・・」ってお酒等と同じ(アルコール発酵)ような感じです。
日本酒はお米から酵母にふくまれる酵素により糖がアルコールに変化します。また、パンも小麦に含まれるでんぷんがパン酵母の酵素によりふくらませ、その後焼くことによって作られます。
ある物質Aからちがう物質Bに変化させる時に使われるのが酵素であって物質Bは酵素ではありません。日本酒を酵素酒、酵素パンとは言わないです。

したがって正しくネーミングするのであれば酵素ドリンクではなく「発酵ドリンク」であって、酵素の働きを期待するものでなく発酵食品としての栄養補給と考えるべきではないでしょうか。

ではこの発酵ドリンクは栄養面では素晴らしくいいものなのでしょうか。

私はこういった商品や広告を見るときに、本当に体にとって素晴らしく栄養に満ちたものかどうかのための指標を持っています。
いわゆる「栄養療法」です。
経腸栄養、末梢静脈栄養、中心静脈栄養等生死に関わる最終的な手段としてとられるのが栄養療法になります。
医薬品名で言うとエンシュア・リキッドやラコールやツインラインなど本当に健康になって欲しい病気の人の栄養療法の栄養剤なのですが、そのなかに酵素ドリンクは勿論入っていません。
本当に体にとって必要な栄養ならば、栄養療法のなかに組み込まれているはずなので、栄養療法に組み込まれているかどうかも皆様も参考にしていただければと思います。

最後にファスティングと酵素ドリンクがセットで行われる点について、その意味は・・・わかりませんでした。

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